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動物だよりvol.557 SAGA21熊本&「断脚したチンパンジーのユウコ」について

2018年11月17日(土)

平成30年11月15日(土)

 

熊本地震発生から948日。

 

 

第21回SAGAアフリカ・アジアに生きる大型類人猿を支援する集い

シンポジウムが熊本で開催されました。

 

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1日目は東海大学熊本キャンパス、2日目は動植物園が会場でした。

 


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1日目の午前中は「大型類人猿の社会性と母子関係」をテーマに、

 

午後は「動物の社会性を考えたアプローチ」をテーマに様々な発表・講演がありました。

 

 

 

当園で昨年末に断脚手術を行ったチンパンジーのユウコについても、午後の部で発表を行いました。

 

ユウコについては、術後の経過についてしばらくお伝えできていなかったので、

 

現在までの経過報告も兼ねて、今回の発表内容をお伝えしたいと思います。

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昨年11月25日に壊死した右足の断脚手術を行ったユウコ。

 

壊死を起こしたはっきりとした原因は不明ですが、

 

・右足の大きな血管に血栓が詰まり、血流が阻害されていたこと

 

・右足に細菌感染と重度の炎症が見られたこと 

 

などが分かりました。

 

 

上は断脚手術後の写真。

 

両手の力に頼って、お尻を引きずって歩く、「松葉杖歩行」をするようになりました。

 


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手術から、約1ヶ月。

 

初めてマルクと柵越しに面会させた時の様子。

 

マルクはユウコの傷口(断脚手術の術創)を入念にチェックしていました。

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面会から数日後。

 

面会がうまくいったので、ついにマルクと初合流

 

やはり、マルクはユウコの傷口を指でなぞっては舐めてを繰り返していました。

 

 

この行動はユウコの傷が治る上で、とても重要な役割を果たしました。

 

デブリードマン」という処置があります。

 

傷口の周りの壊死組織や膿を毎日取り除いてあげることで、傷が早く治るようにする処置のことです。

 

 

マルクによる、ユウコの傷口周囲のグルーミングは、このデブリードマンと同じ働きをしました。

 

マルクのおかげで、合流以降、ユウコの傷は早く治って行きました。

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手術から約3ヶ月。

 

術後初めて、チンパンジー5人全員を合流させました。

 

上の写真は真ん中にいるユウコを、3人がかりでグルーミングしている様子です。

 

久しぶりの再会を喜んでか、右足が無くなったことを心配してか、他の4人からVIP待遇を受けるユウコでした。

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手術から約6ヶ月。 

 

群れに戻ってから、ユウコは少しずつ元気が出てきました。

 

上の写真は、術後ずっとしぼんでいた性皮が初めて腫れ始めた日の様子です。

 

チンパンジーの女性にも、人の女性と同じような生理周期があり、チンパンジーの場合、約36日間の間にお尻の性皮が腫れていきます。

 

この生理周期が戻ったことで、ユウコの行動も活発になったのか、この日初めて床に降りて移動しながらエサを食べました(それまでは、一日中、高いところに寝そべって動きませんでした)。

 


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群れの中で闘争(軽いケンカ、騒ぎ)があった時の様子。

 

何かのきっかけ(誰かが誰かのゴハンを横取りしたなど)で群れの中で騒ぎがあると、

 

ユウコはいつもと比べ物にならないスピードで動きました。

 

当初はケンカがあったら、足の不自由なユウコはケガをしやすいかも・・・・

 

と心配していましたが、かえって良い運動になることが分かりました。



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そして術後約7ヶ月から、東海大学動物行動学研究室理学療法士の川畑氏(株式会社Re学)の協力の元、本格的なリハビリを始めました。

 

術後、体重をかけなくなってしまった左足をなるべく使わせようというリハビリです。

 

「バリアフリーからバリアフルに」を基本コンセプトとし、シュート通路や展示室内にハードルをたくさん設置しました。

 

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上の写真が、シュート通路(部屋と部屋をつなぐ廊下みたいなもの)に丸太ハードルを設置した様子。

 

部屋~部屋への移動のたびに、高さ30cmのハードルを10本くらい超えるのはユウコには大変なようで、

 

ハードルを超える際、左足を手で介助する動作が見られるようになりました。


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上の写真は、展示室内に設置した単管ポールを利用したハードルをユウコが乗り越える瞬間です。

 

結果的には、手で体を引っ張り上げるので、左足にはほとんど体重をかけていないようでした。

 

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また、展示室の2階からの手渡し給餌を1日に何回も行うようにしました。

 

そのたびに、ユウコはホースを掴んで2階まで昇って採りにきました。

 

これも少しでも運動をさせるために行いました。

 


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これらリハビリについては、東海大学の学生さんに行動観察を行って頂きました。

 

その結果、ハードルを設置した後は、設置する前に比べて、ユウコが移動に使う時間が約2倍に増えていることが分かりました。



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また、シュート通路に設置したハードルを超える際、手で左足を介助する動作が見られたのですが、

 

日数を重ねるうちに、介助の回数は減り、やがてほとんど介助は見られなくなっていきました。

 

ハードル越えることで左足に筋力がついたのか?ハードルを越える動作に慣れただけ?なのか、

 

この結果からはわかりませんでした。



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更に興味深いことに、他のチンパンジー達が右足を失ったユウコを気遣うような行動も見られました。

 

上の写真はチンパンジー達が橋を渡って島に出て行こうとしている写真です。

 

ユウコの後ろを行くノゾミは、ユウコの遅いペースに歩調を合わせて移動しています。

 

本来であれば、島にはたくさんエサがセットしてあるので、早く採りに行きたい気持ちだと思うのですが、

 

ユウコが前を歩いているときは、他のチンパンジー達は追い抜かずに後ろをゆっくりとくっついて歩きます。


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また、ユウコがエサを採りに行った方向には、他のチンパンジー達はあまりエサを採りに行こうとしないようにも見えます。

 

ユウコと競い合うことを避けてあげているようにも思えます。

 

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このような、他者を気遣う行動を「利他行動」と言うそうです。

 

人では電車で席を譲ったりなど、自分から進んで利他行動を起こすことがありますが、

 

チンパンジーの場合、自分から進んで「利他行動」をとることはないと考えられてきました。

 

しかし、ユウコに対する他のチンパンジー達の行動を見ていると、

 

頼まれた訳でもないのに、自分から進んでユウコの行動を優先させているように見える時があります。

 

 

もしそうだとしたら、とても心温まる話だなあと思いませんか?

 

今後、行動観察を続けて、このことについて更に検証できればと考えています。

 

 

今回、チンパンジーにとって群れの中で日々を送ることがいかに大切なのか改めて実感しました。

 

ユウコの傷が早く治ったのは、他のチンパンジーからのグルーミングのおかげ。

 

ユウコにとって一番のリハビリになったのは、群れの中で普通に生活すること。

長い眼で見て、群れの中で過ごすこと以上に効果的な治療はないんだなと感じました。

 

 

 チンパンジー舎に来られた際は、群れの中でのチンパンジー同士の何気ない気遣いも感じ取ってもらえると嬉しいです。 

 

 

長くなりましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。 





 

 

 

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