せっかちなスズムシ
立春を過ぎたとはいえまだ2月。冬です。なのに、動物資料館の研究室では、早くも2月18日にスズムシが孵化しました!
鳴く虫の代表格であるスズムシは、自然界では通常5~6月に孵化し、8~10月に成虫となって可憐な声を聴かせてくれます。研究室内は、年間を通して22℃前後に保っているため早めに孵るかな・・・と予想はしていたのですが、それでもちょっとびっくりです。
孵化したばかりの一齢幼虫
スズムシは昔から日本人に人気の飼いやすい虫のひとつとされ、江戸時代には「鈴虫之作様」という虫の飼育マニュアルが書かれたほどです。この「鈴虫之作様」という本、実際に読んだことはありませんが、1820~1840年代に発行されたもので、スズムシ、カンタン、クサヒバリ等の飼い方が記されており、現代でも十分に通用する内容だそうです。
また、御存知の方も多いかと思いますが、鈴虫寺として有名な京都嵐山の華厳寺では、季節によって多少の増減はあるものの、常時約1万匹の成虫がにぎやかに鳴いています。1年を通じてスズムシの声が聴けるお寺、素敵ですね。しっかりと温度管理をしてスズムシを飼育し、1年中その声を楽しめるようにしているそうです。
温度管理、つまり昨年の『鳴く虫展』以降、このスズムシの卵は資料館の研究室22℃の中で過ごしてきたので、自然の中より少し高い温度の中を過ごしたことにより、早い孵化が見られたのかもしれません。今回孵化したスズムシの飼育ケースは、昨秋成虫が全部その命を終えた後に、飼育マットの表面を掃除して軽く日光に当て、水でしっかり湿らせてラップで覆い保管しておいたものです。
この他、昨年の『鳴く虫展』の展示時に雌雄ペアで飼育していた虫の卵をいろいろな方法で冬越しさせています。
水苔に産み付けられたクツワムシの卵
まず、スズムシは①22℃に湿らせてラップ保存のほか、②22℃乾燥保存、③5~6℃の冷蔵庫内で湿らせてラップ保存、④研究室のバックヤードで自然の気温の推移の中湿らせてラップ保存と⑤乾燥保存、と色々な方法を試しています。実は一昨年、自宅のリビングに置いていた飼育ケースのスズムシが孵化しないことがありました。寒さを経験させなかったことが原因かもしれないと考え、様々な方法を試しているところです。
冷蔵庫内でも越冬
カンタンやクツワムシ、マツムシなどは、飼育ケースを大きな衣装ケースに入れ、資料館のバックヤードで越冬させています。
バックヤードの衣装ケースの中で越冬
カンタンのケースの中では、産卵済みのアジサイの茎をしっかり湿らせ、充分な水分を含んだ水苔の上に載せています。クツワムシは、スズムシマットの中に産卵した大きな卵が見える飼育ケースとプラスチックカップの中の水苔に産み付けた卵の2種類があります。マツムシは、産卵した稲わらの束にしっかり霧吹きし赤玉土に挿したケースを準備しました。どれもラップをかけて乾燥しないように準備万端。
水苔の上のカンタン産卵済み茎
マツムシの産卵済み稲わら
自然の中で、このような虫たちは孵化して成長する間に大部分が鳥やカエルなどに食べられてしまう運命にあります。研究室では、不本意ながらタンボコオロギ、エンマコオロギ等のコオロギ類も飼育しているカナヘビやカエル、サンショウウオなどのご飯となるお仕事があります。そのために繁殖飼育しているので、常時、様々な大きさの幼虫や成虫がいます。
カワラスズは、冬越しの準備の際にすでに孵化してしまった幼虫が数匹いたため、ヒーターを入れて飼育しています。研究室内ではコオロギやカワラスズのかわいらしい声が聞こえてきます。
小さなカワラスズの成虫
22℃の研究室で2月に孵化したせっかちなスズムシは、他の虫たちが孵化するころには成虫になっているかもしれません。また、暖冬の影響で他の虫たちの孵化も例年より早くなるかもしれません。せっかちスズムシの成長をじっくり観察しながら、鈴虫寺のスズムシのようにしっかり育てていきたいと考えています。
☆★資料館・津田★☆
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