ザ・脱皮
「脱皮をする生き物」と聞いて、皆さんはどんな生き物が思い浮かびますか?セミなどの昆虫やヘビなどの爬虫類が真っ先に頭に浮かんでくるかもしれませんね。
脱皮とは、節足動物(昆虫やエビやカニの仲間など体の外側に骨格と関節を持つ生き物)のように体の表面を固い組織(クチクラ)で覆われた生き物が成長の過程で古い殻を脱ぎ捨てること。からだが一回り大きく成長するためには外側のかたい殻を脱がなければならないのですね。昆虫が変態するときも脱皮します。
広い意味では、ヘビやヤモリなどの爬虫類の脱皮や鳥の仲間の羽の生え変わり(換羽)、哺乳類の体毛の生え変わり(換毛)も脱皮に含まれます。カエルやサンショウウオなどの両生類やヘビやカメなどの爬虫類では大人になっても脱皮を続けます。こちらは成長とは直接関係のない脱皮です。
テナガエビの脱皮の殻
触角の先まできれいに抜けている!
脱皮というと皮を脱ぐだけのイメージですが、生き物にとっては命がけの行為です。脱皮の直前多くの生き物は食欲がなくなります。また、脱皮はゆっくり時間をかけて行われ、無防備な状態になるので、昆虫などは他の肉食昆虫や鳥類などのエサになってしまうこともあります。脱皮がきちんと行われなければ生きていくことも難しくなります。まさに命がけの行為なのです。
さて、動物資料館には脱皮する生き物がたくさんいます。その生き物たちの脱皮の様子や特徴をご紹介しましょう。
まず、カブトムシ展や鳴く虫展に登場する昆虫たち。こちらは、成長の過程で何回も脱皮し、脱皮する回数も虫の種類によって決まっています。セミが成虫になるとき、幼虫の背中が開いて中から透き通った成虫が出てくる写真や動画をご覧になった方もたくさんいらっしゃることでしょう。コオロギなどの鳴く虫も背中に切れ目が入ってそこから脱皮するものが多いようです。
脱皮したてのコオロギは白っぽい
昆虫ではありませんが、ダンゴムシは上半身と下半身が別々に脱皮するそうです。順番は下半身から。ちょっとユーモラスにさえ思えてきますね。
ヘビの脱皮は、何か固いものに脱ぐ皮をひっかけるようにして頭から脱皮します。ちょうど行儀悪くソックスを脱いだ時ソックスが裏返しになるのと同じような感じです。お墓参りに行ったときに古いお墓の積み石の隙間からヘビの抜け殻が下がっているのを見たことはありませんか?硬い石のどこかに皮をひっかけて上手に脱いだ跡ですね。
ヘビの飼育ケースにチップなどの柔らかい敷材だけでなく木や石などが入れてあるのは、脱皮をうまく行うためでもあるのです。模様のあるヘビは脱いだ皮にも模様が見えますよ。
小さなヒバカリも脱皮を繰り返して成長
なんとミズゴケに引っ掛けて上手に脱皮!
同じ爬虫類であるカメやヒョウモントカゲモドキも脱皮をします。カメはヘビのように全身の脱皮をするわけではなく、甲羅がはがれて落ちているのが観察されます。甲羅のブロックの一つ一つをよく見ると年輪のようになることも多く、年齢を知る手掛かりにもなるようです。
アカミミガメのはがれかけた甲羅
ヒョウモントカゲモドキも脱皮前はヘビと同じように食欲がなくなり、全身が白っぽくなってやがて脱皮します。脱皮は全身あちこちにひびが入って破けて浮き上がるように進んでいきます。ただ、研究室のヒョウモントカゲモドキはちょっと脱皮がうまくいかないこと(脱皮不全)があり、そんなときは温水浴をさせて、きれいに脱がせます。そのままにすると、皮膚の一部が死んでしまうこともあるからです。やっぱり脱皮は命がけ!
脱皮途中のヒョウモントカゲモドキ
先日、モクズガニの水槽をのぞくと、1匹しかいないはずなのに2匹いたのでビックリ!よく見てみると、片一方の個体のはさみに生えている細かな毛が真っ白でまるで白いポンポンを持っているよう。もう一方のモクズガニのはさみの毛は茶色です。
いや、待てよ。もう一度よく見てみると、どうやらモクズガニが脱皮をした後であることがわかりました。まるで分身の術です。ヘビやヒョウモントカゲモドキの脱いだ皮と違って、脱いだ殻はまるで生きているようです。アメリカザリガニも脱皮したときはモクズガニと同様動かない殻が同じ水槽の中に見えるので、お客様が「ザリガニが死んでます」と知らせに来られることがあります。
モクズガニの分身の術!
どこから脱皮したのかあちこち触っていると、甲羅の後ろ、ちょうどカニを食べるときに最初に開ける部分から脱皮していることがわかりました。きっと夜の間にゆっくりと殻を脱いだのでしょうね。
中身は空っぽ
このように一皮むけて成長したり美しくなるのはなかなか大変なこと。「動物資料館の展示やガイドは最近一皮むけたように面白い!!」と言っていただけるよう頑張っていきたいと思います。
☆★資料館・津田★☆
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