タナゴと貝の特別な関係♡
現在、動物資料館には、7種類のタナゴの仲間(ヤリタナゴ、アブラボテ、カゼトゲタナゴ、セボシタビラ、カネヒラ、イチモンジタナゴ、バラタナゴ)が飼育、展示されています。熊本県内で自然に分布するタナゴたちです。
タナゴの仲間はコイ科タナゴ亜科に属する純淡水魚です。淡水魚は海水魚に比べて一般的に地味な魚が多いです。色もくすんで目立たないし、形も何となく似たようなものが多いと感じるのは私だけでしょうか?ただ、タナゴの仲間はオイカワやカワムツの雄と同様淡水魚としては例外的に繁殖の季節に美しい婚姻色を見せてくれます。
オイカワの婚姻色 4月4日撮影
バラタナゴの婚姻色もキラキラ 4月4日撮影
ところで、魚類の産卵というとどのような光景を思い浮かべますか?
淡水魚の産卵方法には①付着させる②砂地にばらまくように産卵する③二枚貝を利用するという3通りの方法があります。
モツゴやコイ、メダカのように石や植物の茎、水生植物などに産み付ける方法が①の方法、②は生まれ故郷の川を上って砂地に産卵するサケが有名です。雌が産卵すると同時に雄が精子をかけ、受精卵を尾びれで砂と混ぜるような行動をとります。カワムツやオイカワ、アユもこの方法で産卵します。
タナゴ類とヒガイ類は③の方法で産卵します。タナゴ類はえら膜の間に、ヒガイ類は外套膜のところにそれぞれ産卵します。この卵を産みつける場所の違いが産卵管の長さの違いにつながるのです。つまり、タナゴ類はえらの奥に管を入れるので長く、ヒガイ類は開いた殻の隙間に産卵管を差し込むので短いのです。同じタナゴの仲間でもバラタナゴの産卵管は長く、ヤリタナゴの産卵管は比較的短いようです。
出水管、入水管に雌が産卵すると、すぐに雄が精子をふりかけタナゴの卵は受精卵となって二枚貝の中にとどまるのです。こうやって、常に新鮮な水が通り、貝の硬い殻に守られるのは卵やかえったばかりの稚魚を守るための自然の知恵でしょう。
3月のある日、研究室のヤリタナゴを見ていたら、産卵管の伸びた個体を見つけました。産卵管の長さはお腹の中の卵の成熟度と比例すると言われています。つまり、卵が成熟し産み落とす直前に一番長くなるのです。かなり長い個体が1匹と短い産卵管が見える個体が3匹います。ヒレに綺麗な色のついた雄も数匹いました。
産卵管をヒラヒラ
上がメス、下がオス
オスのヒレには美しいオレンジの縁どり
繁殖期到来!卵をかえしてみたい!!
そこで、ちょっとした実験をしてみました。お茶のパックにシリコン素材のお弁当のおかず入れを出水管、入水管に模して作ったものを縫い付け、ドブガイの貝殻に入れてドブガイダミーを作成。ヤリタナゴの水槽に入れてみたのです。初めは遠巻きに見ていたものの、半日もするとその周りをウロウロするようになりました。
お茶のパックにシリコンの管を縫い付け
ドブガイの貝がらに入れて
ドブガイダミーの出来上がり
最初は用心して奥にかたまっていたヤリタナゴ
すぐに慣れて周りをウロウロ
3日後、長かったヤリタナゴの産卵管が約1/3の長さになっているのを確認し、ドブガイダミーを別の水槽に移しました。「卵を産み付けるドブガイがいた!」とヤリタナゴが勘違いして卵を産んでいると嬉しいのですが・・・
生きているドブガイではないので、ダミーの横にエアーストーンを設置。もしも卵がかえったときのために、投げ込み式フィルターからのエアーも加わり、赤ちゃんを迎える準備は万端です。
貝の中に卵はあるかな・・・
ドブガイダミーを別水槽に移して2週間たっても3週間たっても稚魚が泳ぎ出てくる様子はありませんでした。中を開けてみてみても産卵の形跡なし。やっぱりそう簡単に勘違いはしてくれなかったようです。
一方、ドブガイはただタナゴの卵や稚魚を守るだけではありません。ドブガイもまた、自分の次世代へつなぐ命をタナゴや他の魚たちに守ってもらっているのです。
ある日、イチモンジタナゴの水槽の中で、ドブガイが幼生を放出していました。粘液のようなものの中に包んでたくさんの幼生が水中に出ると、その粘液がそばを通るタナゴなどの体表にまとわりつき、ヒレや体表に取り付きます。しばらくの期間付着した部分から養分をもらい成長した後に魚体を離れ砂の中で成長を続けるのだそうです。
幼生放出後のドブガイ
貝のふちに粘液のようなものが糸を引いている
ヒレや体表に見える白点は幼生
エアーのチューブ表面にもたくさんの幼生が見える
ドブガイも孵化したばかりの一番頼りない時期をタナゴたちの力を借りて守ってもらっているのですね。まさに共生です。ただ、タナゴが産卵しているまさにその時ドブガイが気まぐれに貝がらを閉じ、産卵管が貝に挟まれることも。そんなタナゴがあたふたしている様子が観察されることもたまにあるそうです。タイミングが大切!?
タナゴと二枚貝の特別な関係、まだまだ解明されていないことも多いようです。『?』を楽しむアンテナを張りながら観察を続けていきたいと考えています。
☆★資料館・津田★☆
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