動植物園は調査研究の場でもあります。
野生では見ることが難しい行動や生態を近くで観察できることが飼育下の強みです。
そこで得たデータを飼育下動物に還元し、さらには、野生動物の保全につなげることを目的としています。
当園も大学等研究機関と連携し、
様々な研究や調査を行っています。
今回は東海大学農学部
応用動物行動学科の学生さんが
ホッキョクグマについて、調査、研究発表されたものを
簡単に紹介したいと思います。
【目的】
今回の調査研究の目的は、当園で飼育している
マルル(メス8歳)の行動について現状を把握すること、
そして、環境エンリッチメント(動物福祉の観点から、飼育動物の幸福な暮らしを実現するための具体的方策)の効果について、科学的に検証することです。
とりわけ、飼育下のホッキョクグマは
常同行動(右往左往する往復行動)が多く発現すること、
常同行動とストレスは相関が認められていることが
各種論文等で指摘されています。
そこで、当園が取り組んだ環境エンリッチメントで、
常同行動が減少しているかを調査しました。
【調査項目と方法】
① 屠体給餌の効果
(屠体給餌:日本で有害駆除された野生動物を適切
に処理して飼育動物に丸ごと給餌すること)
② 寝室扉の夜間開放
通常、飼育動物(一部の動物は除く)は、夜間は寝
室収容して朝に放飼しているが、今回は寝室の扉を
清掃のとき以外、終日解放
なお、本調査は観察する行動項目を定め、直接観察法と連続観察法で行いましたが、コロナ渦のために研究する学生さんが頻繁に来園しての観察が難しいこともあり、株式会社キューネットさんのクラウドカメラが活躍しました。
【結論】
・屠体給餌により常同行動の発現割合が顕著に減少した。
・夜間の寝室開放により、常同行動の発現割合は日を追うごとに減少した。
(ただし、今後継続的な調査が必要)
これらの結果から、環境エンリッチメントの実施は、野生での生活圏を再現することが困難な飼育下のホッキョクグマでも、限られた飼育環境の下でも動物福祉を向上することができる可能性があると考えられる。