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ホッキョクグマの行動観察

2021年6月30日(水)

 動植物園は調査研究の場でもあります。

野生では見ることが難しい行動や生態を近くで観察できることが飼育下の強みです。

そこで得たデータを飼育下動物に還元し、さらには、野生動物の保全につなげることを目的としています。

 

当園も大学等研究機関と連携し、

様々な研究や調査を行っています。

 

今回は東海大学農学部 

応用動物行動学科の学生さんが

ホッキョクグマについて、調査、研究発表されたものを

簡単に紹介したいと思います。


【目的】

今回の調査研究の目的は、当園で飼育している

マルル(メス8歳)の行動について現状を把握すること、

そして、環境エンリッチメント(動物福祉の観点から、飼育動物の幸福な暮らしを実現するための具体的方策)の効果について、科学的に検証することです。

とりわけ、飼育下のホッキョクグマは

常同行動(右往左往する往復行動)が多く発現すること、

常同行動とストレスは相関が認められていることが

各種論文等で指摘されています。


そこで、当園が取り組んだ環境エンリッチメントで、

常同行動が減少しているか調査しました。


【調査項目と方法】


  屠体給餌の効果

    (屠体給餌:日本で有害駆除された野生動物を適切

    に処理して飼育動物に丸ごと給餌すること)

② 寝室扉の夜間開放

    通常、飼育動物(一部の動物は除く)は、夜間は寝

    室収容して朝に放飼しているが、今回は寝室の扉を

    清掃のとき以外、終日解放


  

 なお、本調査は観察する行動項目を定め、直接観察法と連続観察法で行いましたが、コロナ渦のために研究する学生さんが頻繁に来園しての観察が難しいこともあり、株式会社キューネットさんのクラウドカメラが活躍しました。

 


     放飼場カメラ
2

                 寝室カメラ
3
   
   モニター画面
4

【調査の結果】

   屠体給餌の効果

・屠体給餌により、ホッキョクグマの採食時間が

 増え往復歩行や同じ場所を泳ぐ行動が減少した

・翌日、屠体給餌はなかったにもかかわらず、

往復歩行や同じ場所を泳ぐ行動が減少した。

 

   寝室扉の夜間開放

 ・往復歩行は、扉を開放して4日まではあまり

    差が無かったが、12週間と日が経つに

    つれて減少した。

・夜間はあまり寝室に入ることが少なく、外の

 放飼場で過ごす時間が多かったが、雨や雷など

 の悪天候のときは寝室で過ごしていた。

・餌は寝室内にセットしてあったのを、放飼場に

 運び採食していたので採食時間が増加し、

 夜間のおもちゃ遊びも増加した。

 ・睡眠時間は少し減少した。


 

 

なお、それぞれの方法について、往復歩行の距離を

算出したところ、

① 屠体給餌の日の往復歩行距離   :4.6

 屠体給餌の翌日の往復歩行距離  :11.1


② 寝室扉の夜間開放後の往復歩行距離

  解放後2-4日(平均):26.7km

    解放後1週間後   :18.7km

  解放後2週間後   :16.1km


 ※観察日全体の平均は24.2(14.932.6)



      屠体給餌の様子
1

   右往左往するマルル
5

【結論】

・屠体給餌により常同行動の発現割合が顕著に減少した。

・夜間の寝室開放により、常同行動の発現割合は日を追うごとに減少した。

 (ただし、今後継続的な調査が必要)



これらの結果から、環境エンリッチメントの実施は、野生での生活圏を再現することが困難な飼育下のホッキョクグマでも、限られた飼育環境の下でも動物福祉を向上することができる可能性があると考えられる。


いかがでしたか?

園では様々な環境エンリッチメントの取り組みをしていますが、本当に飼育動物のためになっているのか、調査研究で検証することの大切さが

おわかりいただけましたでしょうか

 

現在、園ではこの結果を受け、ホッキョクグマの

寝室の夜間開放を実施しています。

また、屠体給餌についても検討を進めていきたいと

考えています。


最後に本研究をされた学生の方、お疲れ様でした。

カメラを提供下さった株式会社キューネット様、

力添えありがとうございました。


                 飼育2班
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