平成28年11月30日(水)晴れ 熊本地震発生から230日。 これまで、ちょこちょこブログに登場してきた チンパンジーの地震発生後の行動変化を SAGA(※)のシンポジウムで報告して参りましたので 今日のチンパンジーの様子とともに、掲載します。 (※ アフリカ・アジアに生きる大型類人猿を支援する集い)
熊本地震発生から10月末まで 作業の合間にみかけた16項目の不安様行動や採食量、便の状態など 飼育日誌に記録しており、それを平成27年度との同期間で比較しました。
まず、前震被災時の部屋割りです。 寝室大部屋(集団部屋):マルク、カナエ、ユウコ 寝室1(個室):クッキー 寝室2(個室):ノゾミ その統計学的な集計結果については(グラフ省略) 以下のとおりです。
① 5人とも地震発生当初の不安様行動の発現が高く、その後徐々に減少。 クッキーの不安様行動の出現は他4人よりも高く ロッキング(体を左右に揺らす)は個室で多く認めた。
② 地震発生直後、5人の1日の総採食量が顕著に減少し 約10日間かけて地震発生前の採食量に戻った。
③クッキーは、昨年度と比較して 個室(ひとり部屋)でのロッキングの増加、採食量の減少、軟便の増加がみられた。 一方、同様に個室で被災したノゾミには、クッキーほどの大きな影響はみられなかった。
④カナエは、集団で就寝する際には、地震発生以前から軟便が多かったが 今回の地震以降数か月間、同部屋での軟便発生率がさらに上昇した。
⑤ユウコの性周期サイクルは 地震発生から1サイクル後のメンスが1週間程度遅延した。 ↓ これらから言えた3つのこと ○5人の不安様行動と採食量の減少は 余震の発生頻度と関係している可能性が示唆(しさ)された。
○地震発生の際に居た部屋と同じ条件になると 個体(クッキー、カナエ)によっては その後の不安様行動の発生に影響する可能性が示唆された。
○余震頻発時期が過ぎると、個体(マルク、ノゾミ、ユウコ)によっては 地震と行動・採食量の関連性が不明確となった。 ↓ まとめたポスターをみられたい方は コチラ SAGA (ファイル:2.12メガバイト)からどうぞ。 さて。 11月30日現在、チンパンジー達は皆落ち着きを取り戻しています。 とくに1人部屋に対して不安を感じていたクッキーも 先月末頃からスムーズに入室し、不安様行動も見せず すぐに夕食も食べることができるようになりました。
本日の島の様子です(↓)。
紅葉が美しく、春からの時間経過を感じます。
チンパンジーたちも、今の季節は過ごしやすいようで、よく動いています。
寒いのが苦手なカナエは 冬になると両手で体を抱きしめて外に出ますが 今はこのとおり(↓)
落ち葉をさくさく踏みながら、あっちこっち探索。
カナエの右奥に見える黄緑色(↑)は ボランティアさんたちが植えてくださったトウモロコシです。 ノゾミ、カナエの猛襲に負けず、育っています。
ノゾミ(左)とクッキー(右)は、好きなみかんを選んで食べています。
フィーダーの前に座っているのは、カナエ(↓)。
みかんを食べつつ、フィーダーに手をかけてにっこり。
うっかり手をはなして(↓)
切り株からおりて左横の白い大根をとったすきに クッキーがやってきました(↓)。
まずい! カナエは、あわててフィーダーを握って「これはわたしの!」アピール(↓)。 あと少しでゲットできそうだったクッキーは いえいえ、別にとろうなんて、と視線をそらします。
チンパンジーの間では 先に手をかけているひとのものになるルールがあるので この場合は、カナエのものとなります。
マルクは、今年夏バテもなく、秋になってますます元気!
ひょいひょい大タワー登って行って、すぐにミカンをゲット。
その頃、ユウコは・・・(↓) ビヨーン☆
舌じゃなくて、イモでした☆
食欲旺盛! ちょっとふくよかになってきたユウコです。
カシの葉の茂みに隠れているのは、白毛の多いノゾミ(↓)。
視線を感じたのかな?
ん?
んんん?
さすがノゾミ、カメラを向けるとすぐに気づきます。
カナエが途中で諦めたフィーダーには、すぐにマルク。 他3人と比べると、カナエもマルクも指が太くて小さな穴には苦労しますが すぐに諦めてしまうカナエと違い マルクは、時間をかけて楽しむ派です。 クッキーも、フィーダーはとれなかったけれど みかん、イモ、ニンジンなど色々ゲットできました。 大タワーの上でもぐもぐしながら、こちらを観察。
お、秋の風景を楽しみますか。 いや、やっぱりこっちかーっ(^^;)
というか、これは凝視☆ いたずらっこな瞳で楽しそうに見ています。
熊本地震以降 余震のたびに不安そうなチンパンジーたちの様子をみて あらためて思うことがありました。
地震大国の日本で、動物たちを飼育しているわたしたち人間には 動物福祉、動物の幸福を常に考える責任があります。
個々の動物がいかに動物園で快適なときを過ごせるか それはもちろん経済的な条件もありますが 日々担当動物を見守っているスタッフにかかっています。
わたしたちチンパンジー担当も クッキーが1人でいることに対して不安を抱いていると気づいてからは 彼女の状態をみながら 1人ですごす時間も怖いことはないんだよと 最初は数分から、少しずつ時間をのばして学習してもらい 彼女の不安を取り除くことにつとめました。 不安様行動が大きく出る日は短時間にして 一進一退で行ってきましたが 地震発生から3ヶ月たった7月15日 ようやく、地震前のように1人部屋で泊まれるようになりました。 翌朝の落ち着いた姿に安堵したのを、まだ次の日のように憶えています。
今後も、地震後の動物たちの心のケアにつとめながら 注意深く、見守っていきたいです。
上野 明日香、竹田 正志、福原 真治 |